【対談】なぜスタートアップに資本政策が必要なのか

Date: 2021.04.27 | Author: Yoichi Yoshihara

スタートアップや起業には、多くの準備が必要です。なるべく早い段階から備えておきたいものですが、具体的にどのような準備が必要になるのかわからず悩んでいる方も多いのではないでしょうか。
この対談のテーマは、起業に欠かせない「資本政策」についてです。なぜ起業や経営には資本政策が必要なのか、どのような点に注意すべきなのか、(株)資本政策研究所CEOの吉原が(一社)日本ファミリービジネスアドバイザー協会理事の馬場研二さんと対談しました。

FBAA 馬場研二さん
馬場研二(ばば けんじ)
一般社団法人日本ファミリービジネスアドバイザー協会(略称:FBAA)理事

サイバー大学IT総合学部専任教授、NPO日本MITベンチャーフォーラム(略称:MIT−VFJ)理事、九州アジア経営研究所所長を務めるとともに、複数の老舗企業で後継者に対する事業承継支援を役割として監査役や顧問に就任。また、ベンチャー企業においてIPO・資金調達支援を役割として取締役・監査役や顧問を務める。
1991年米国ボストン大学で経営学修士(MBA)取得。地方銀行の外貨投資部門システム開発、外資系の人事コンサルタントを経て、2001年から、140年以上続くファミリー企業の本社経営企画部門に所属し、グループ経営戦略策定、新規事業推進、不振事業対策、人材開発などに15年間携わった後独立。

「資本政策の知識」を得ることの重要性

馬場資本政策に関して、投資家と起業家の間には情報の非対称性があるにもかかわらず、起業家向けの教育活動が追いついていません。一方で投資家側も時間単価が高い人が多く個別にフォローできない面があります。

馬場「株式を投資家に渡すということはどのような意味を持つのか?」といったこともわからないまま起業する人がとても多い状況に危機感を感じてサイバー大学で教えています。

吉原「Which hand」の「資金の前に情報を調達しよう」というキャッチコピーは「資本政策は、薬にも毒になる。怖さを知りつつも、有用に使おう」という意味です。資本政策についても同様のことが言えます。正しく知ることは、起業家にとってとても重要なことです。

馬場学校は「教授=セオリーを教える」ことまでしかできないという問題があります。「事業計画書を書いてみる」といった「セオリーと現実をすり合わせる作業」を一緒に進めていく人を見つけることが起業家には必要です。経営者の能力は偏っていて当然だと思います。ただその中で重要なのはVC側に自分がやりたい思いを説明できるような人(第三者のメンター)を味方につけて、相談しながら交渉する環境を持つことです。

投資の決定には時間がかかる

吉原投資が決定するには短くて3か月…通常は半年以上かかりますよね。というのも組織対組織の話になるので、出資側企業の投資委員会が月1回程度開催されて、そこでプランを揉んで、やり取りが発生して、となると最低でもそのくらいはかかってしまう。

馬場シリーズA、Bでの大きな金額の投資先とは、1年くらいはコンタクト取ってるのではないでしょうか。VC側は「ビジネスモデルと本物感」を吟味するわけですが、そもそものビジネスモデルを理解することがVC側も大変。起業家も無意識な部分があるし。もちろん、その分野のベンチャーを探していたというVCと出会えば3ヶ月で決まることもあるでしょうけど。

吉原お金が尽きてしまうと、ビジネスは止まってしまいます。どのくらいのお金がいつ必要か、そのお金をどのように調達するかは、早いうちから常に考えておく必要があります。

その資金調達でビジネスは進むのか

吉原起業してピッチコンテストや交流会に参加するようになると、資金調達している人もちらほらいるのでそういう知り合いから話を聞くことはできると思います。ただ、私は20年以上この仕事をやってきましたが、資本政策をわかっているような人はほぼいないのです。危機感を覚えています。

馬場相談する人がまともならいいのですが…。資本政策は「起業や経営の土台」です。が、こんな話をよく聞くのです。ある投資家が「2億円の事業評価、シードマネーとして2000万円出資したい」と言ってくれました。起業家さんは嬉しくなりますよね。ところがアプリ開発だいやなんだとやっているとあっという間に2000万円かかってしまう。マーケティングコストは?みたいなことは本当によく起こります。びっくりされるかもしれませんが、本当によくあることなのです。

馬場事業評価を得てしまったことによって、その次の資金調達の目処がたっていないのに始めてしまう、もう少し先の経営判断、つまり今やっていることの先の顧客獲得が見えていないまま、サービスインしてちゃってから相談がくることが本当に多いんです。サービスを実際に作り始める前に十分な検討が必要なのですが。

吉原昨今はインターネットで検索すると様々な情報を得ることができますが、病気のことは病院に行って医師に相談しますよね。資本政策についても同様のことが言えると思います。 まとまったサービスを立ち上げようと思ったら2億円くらいあっという間にかかります。最低限の費用なんじゃないでしょうか。2000万円でそこから立ち上がれないのは自然淘汰である、と投資家が考えるのはちょっと無責任ですよね。

資本政策を相談できる相手はどこにいるのか?~プロボノの活用~

馬場自治体の創業支援やインキュベーション支援は、飲食、美容室といった自営業の人向けであることが多いです。そのため、インキュベーション施設に行っても創業支援でしかないというケースはしばしばあります。スタートアップが求めるようなしほんせいく経営のプロはいないと思ってください。一方で、いざベンチャー企業への投資の話が話が出ると”身柄拘束”といったら大げさですが、出資の条件として東京への会社移転を求めるようなところもあり、以前はプロの力を借りるのも難しい部分がありました。

吉原世界中で新型コロナウイルス感染拡大の影響が出ているとはいえ、ウェブでのコミュニケーションだけでは投資しづらい、距離が近い方がよい、という話をよく聞きます。特に数千万(前半)程度のシード出資であれこれ要求してくるVCが本当に多いと聞きますね。

馬場リアルで会うことは、コミュニティとの接点を増やしやすくします。つまりこれまでは「わらしべ長者」をするための「わら」が東京にたくさんあったのは間違いないです。ただ、研究開発拠点を構えやすい、幹部の引き抜きの防止といった点では地方には優位性がありますし、新型コロナウイルス感染拡大の影響でそもそも会うことが制限されることが起こると、東京に行かなければ得られなかったものが薄まって、生態系が変わる部分があると感じています。

馬場そこで「プロボノ」ですよ。ぜひプロボノを味方につけてください。たとえば、MIT-VFJ(日本MITベンチャーフォーラム)は、事業計画書の書き方、ビジネスプランの使い方など、「ビジネスモデルをコアとしたコミュニケーションができる」「自分のやっていることの将来像を説明できる、つまり現実性と実効性が求められる」場面に対応できるスキルを磨こうという場を作っています。さきほどのケースのような場面で総額2億円くらいが必要だよね、というような話を伝えたりできます。先を見据えたアクションを取るお手伝いができるんです。会社法の話、議決権の話…ひとつひとつは細かい話かもしれませんが資本政策にとってプラスになる知識を沢山持っていますし、法改正や世の中の情報キャッチアップすることの価値なども得られると思います。ぜひ有効に使ってください。

「想いを共にする味方」の重要性

馬場ベンチャー、家業を継ぐ人はもちろん、それこそNPOや一般社団法人にも言えることですが、”ライフ・ワーク・バランス”どころか”ライフ・イズ・ワーク”という局面に立つことがあります。どうしても24時間365日仕事に没頭するような時期も出てきてしまいます。とても厳しい話なので「嫌いなことをやっている人」はうまくいかないです。だからといって「この報酬をあげるからあなたもやるよね」といった「労働と対価」のような関係だけで考えるとそれはそれでとても難しいのです。

吉原だからこそ必要なのは多くの「仲間」やその道の相談相手ですよね。

馬場金銭ではない人間関係だったり、その人間関係から気づきを得ることはプライスレスですよ。

Whichhandに期待すること

馬場FBAAの資格認定講座はファミリービジネスに特化して、同族企業の永続を支援するアドバイザー人材を育成しているのですが、メンターとしての行動原理を資格化したものとも言えるので、資本政策の部分に特化した講座とかできるといいですよね。ベンチャー起業家の信頼されるアドバイザー業のようなもの、例えばですが『資本政策アドバイザー(仮)』のような資格ができたらいいな、と思っています。『Which hand』は資本政策の評価軸を理解している人たちが集う場所になったらいいですね。

吉原私もこれまでは対面での活動が多かったですが、Which handを通じてみなさまとコミュニケーションを取り、資本政策のお手伝いをしていきたいと考えています。ありがとうございました。

<馬場さんからのお知らせ>

(一社)日本ファミリービジネスアドバイザー協会の紹介です。
2012年に設立して、現在250名の会員を擁し、そのうち175名が認定講座を受講して「FBAAファミリービジネスアドバイザー資格認定証保持者」となり、企業の執行役員クラスう十数名が手弁当でこの活動に励んでいます。
コロナという「ピンチ」を「チャンス」に変えるべく、認定講座のオンライン化を進めており、全国の多くの人に届けられるようになりました。資本政策は、老舗においても重要です。ベンチャー型事業承継も増えてきています。
お役に立てることも沢山あると思います。是非お声がけください。よろしくお願いします。

関連サイト:日本ファミリービジネスアドバイザー協会(FBAA)

吉原暢一 (よしはら よういち)
株式会社資本政策研究所 代表取締役

1985年日本合同ファイナンス(現JAFCO)に入社。20年にわたり精密機器、半導体、機械、ソフトウェア、流通を中心に国内外で60社超のExit実績。その後みずほ証券や国際特許事務所、プルータス・コンサルティング、監査法人系アドバイザリー会社において、IPO主幹事引受・PO引受、M&AのFA、MBOアレンジ、シード段階からの資本政策サポート、知財戦略アドバイス、インセンティブプラン導入アドバイスなどを経験。
2018年12月に株式会社資本政策研究所を設立。

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